書評

答えを出すべき問題(イシュー)は全体の約1%である。

こんにちは。ケンゴンです。

今回は『イシューからはじめよ』安宅 和人 著(英治出版)です。

著者は元々脳科学を研究されていた方です。その後マッキンゼーに勤め、現在は大手IT企業で経営課題に携わっている方。バリバリの理系出身。この本は情報量が多く、内容は平易ではない為、部分によっては読み返しながら読んだ次第ですが、論理的で、読みやすい文章を書く方との印象を受けました。

まず、題名の「イシューからはじめよ。」です。これは「隗より始めよ。」をもじっているものと思われますが、「イシュー」という言葉が私にはあまり馴染みがない。そこでググってみました。

イシューとは、一般的な用語としては「論点」「課題」「問題」などと訳されることが多いが、「クリティカル・シンキング」においては、論理を構造化する際に、その場で「何を考え、論じるべきか」を指す。 「イシューを特定する」とは、「何を考えるべきか」「受け手の関心は何か」を熟考し、「考え、論じる目的」を押さえることを指す。

ひとことで言うと、「考えるべき問題」といったところでしょうか。
著者が定義するイシューとは、下記両方の条件を満たすもの、とのことです。

a matter that is in dispute between two or more
2つ以上の集団の間で決着のついていない問題
a vital or unsettled matter
根本に関わる、もしくは白黒がはっきりしていない問題

そして、「自分のおかれた局面でこの問題に答えを出す必要性の高さ」が高いほど、「イシュー度」が高いイシューとのことです。

問題解決において、MECE(漏れなくダブり無く)やフレームワーク等の考えがあり、それらの手法を紹介する書籍は溢れています。しかし、それらは道具に過ぎない。「カナヅチをもっていればすべてのものがクギに見える」という言い回しがありますが、このように目的を知らずにツールだけを使うのは危険だ。と著者は警告します。
それらを使って解決すべき、イシューの選定こそ、重要。何を解決すべきか。解決すべき価値ある課題を見据えて、対処せよ。と、著者のメッセージとして理解しました。

「これまで〈与えられた問題にどう対処するのか〉と考えていたが、まず〈本当の問題の見極めから入らなければダメなんだ〉」

解決すべき価値のある課題。その課題の見極め方について、よいイシューの3条件として以下を挙げています。

①本質的な選択であるのか

答えが出ると、そこから先の方向性に大きく影響を与える課題であること。
選択肢があり、どちらかになるのかによってそこから先の研究に大きな影響がでるものがよいイシュー。
例えば、「ある商品Aが売れない」場合、「Aに商品力がない」OR「商品力はあるが、販売方法がよくない。」を検討するというイシュー。
どちらかであるかによってその後の戦略見直しのポイントが大きく変わる。

②深い仮説がある

「常識を覆すような洞察」があること。「新しい構造」で世の中を説明できること。
この構造的な理解には以下4つのパターンが存在するという。
・共通性の発見
・関係性の発見
・グルーピングの発見
・ルールの発見

③答えを出せる

どれほどカギとなる問であっても、答えを出せないものはよいイシューとはいえない。
気軽に取り組んだもの、検証方法が崩壊すると、時間、手間の点で取り返しのつかないダメージとなる。答えが出せる見込みが殆どない問題があることを事実として認識し、そこに時間を割いてはならない。既存の手法、やり方の工夫で答えを出せるのか、見極めが必要。

上記条件でふるいをかけると、価値あるイシューは全体の約1%だそうです。

条件②は、少々抽象的な印象を受けましたが、日常生活における課題の設定においても、適用可能な条件と思った次第です。

一人の科学者の一生の研究時間なんてごく限られている。研究テーマなんてごまんとある。ちょっと面白いと思う程度でテーマを選んでいたら、本当に大切なことをやるひまがないうちに一生が終わってしまうんですよ。
ーーーーー利根川進(生物学者・ノーベル生理学・医学賞受賞)

人生において、時間は限られています。
問題は溢れていますが、全ての問題にいつかは手を付けられるというのは全くもって妄想です。解決すべき、価値のある課題「イシュー」を見極め、限られた時間を使って取り組む必要があるということです。選択と集中ですね。

闇雲に、根性論で片っ端から課題を努力で片付けていこうとする姿勢はナンセンス。プロフェッショナルの世界では「努力」は一切評価されない。と著者は言います。

逆説的ですが、いかに努力しなくてもよいかを考えることに努力を使うことが正しい道と思います。

以上、ケンゴンでした。
それではヒュッゲな一日を。